今なお世界的に人気で多くの作品に影響を与えてきた名作「美少女戦士セーラームーン」。
最初のテレビリーズの放映は1992年から1997年なので、ちょっと古い作品な気もしますね。
しかし、2014年にはリメイク作品として「美少女戦士セーラームーンCrystal」が放送され、さらには2023年には完結編となる「劇場版 美少女戦士セーラームーンCosmos」が上映予定という、ホットな作品でもあります!
時代を超えて愛されている作品ですので、改めてその魅力を説く必要はないと思いますが、このサイトでは違った観点でセーラームーンの魅力を説いています。
それは「アニメ北米版は英語学習にピッタリの作品!」ということです。
下記記事ではその理由を詳しく説明しています。
他にもセーラームーンに登場する便利な英語フレーズをたびたび紹介しています。
さて、当たり前ですが紹介している私もセーラームーンの北米版を通して英語を学習しています。
目的が英語学習ですので、視聴する際には英語音声&英語字幕で視聴しているので、原作の日本語セリフはあまり聞かないわけです。
しかしある時、英語セリフでとてもユーモアのあるセリフを聞いた時、もとの日本語では何と言っているのだろう?と不思議に思いました。
そこで原作の日本語セリフを聞いてみると、何てこともない普通のセリフだったのです。
つまり、原作では何の変哲も無いセリフも英語翻訳版ではユーモア満載の英語で翻訳されている場合があるのです!
原作のセリフを改変することに抵抗を感じる方もいらっしゃるかとは思いますが、この改変されたセリフが、キャラクターのイメージを損なうことなく、センス抜群のユーモアに溢れているのでお気に召すこと間違いなしです。
今回はそんなユーモアあふれる英語翻訳版のセリフをいくつか紹介してみます。
ユーモア溢れる翻訳たち
ガリ勉の亜美ちゃんに合わせて…
突然の雨で、雨宿りのために喫茶店に入ったレイと美奈子は、偶然にも亜美とまことと出会います。
亜美は机に参考書をいっぱいに広げていました。
まずは原文である日本語のセリフを見てみましょう。
雨宿りというわずかな時間にも、多くの科目の復習をやろうとするガリ勉の亜美ちゃん。
というか常にそんなに参考書を持ち歩いて肩が凝らないのか(笑)
まこちゃんもたじたじです。
さて、これが英語吹き替え音声ではどのように翻訳されているか見てみましょう。
英文の下の日本語は意訳です。
そうなの、雨が止むのを待つためにここに入ったんだけど、その間に歴史と数学と国語と社会と理科の勉強をやろうと思ったの。
私はミルクシェイクの勉強をしてたの。
ここでは、亜美が鬼のように勉強しているのに合わせて、まことが目の前にある「ミルクシェイクについて勉強しているんだ」とジョークで返答するセリフになっています。
まことが飲んでいる白い飲み物については本編で触れられなかったので本当は何だったのかはわかりませんが、翻訳者はミルクシェイクということにしたのでしょう。
アメリカでは白くて冷たい飲み物といったらミルクシェイクなんでしょうかね?
本来なら「バッタリ会っちゃった」という何の変哲もないセリフなわけですが、英語版では機転の効いたユーモア溢れるセリフになっていると思いませんか?
英語ならではのダブルミーニング
続いては英語ならではの表現にうまくかけた知的な翻訳です。
真夏の暑い日に美奈子はうさぎとまことと待ち合わせをしていましたが、二人共遅れてやってきません。
そこへまことがようやくやってきましたが、さすがに美奈子は不機嫌です。
まずは原文の日本語セリフです。
ちょっと遅れたくらいで、すねない、すねない。
続いて英語翻訳を見てみましょう。
英文の下の日本語は意訳です。
まこちゃん遅刻。
あ、怒ってる。ちょっと遅れただけじゃん。
You gotta chill out!
チルしなよ!
チルするには暑すぎるわよ!
さて、あえて日本語訳で「チル」としているのは、まさにこの言葉がキーだからです。
「chill out」というのは日本語で翻訳するなら「落ち着く」「リラックスする」という意味の言葉です。
最近では日本語でも「チルする」「チルる」「チルアウトな」などというみたいですね。
そして実は「chill」という単語にはそもそも「ひんやりする」「冷たい」という意味があるのです。
例. a chill breeze = 冷たい風
美奈子のセリフを見ると、It’s too hot to chill out! と言っていますが、これは「のんびりするには暑すぎるわよ!」とそのまま受け取ることもできますが、chill本来の意味である「冷たい」も意識したセリフだと考えられます。
より磨きのかかった煽りへ
続いては翻訳によって、よりキレッキレの煽りに変化したシーンです。
ブラックムーンのアジトにいる「あやかしの四姉妹」のカラベラスとペッツ。
カラベラスは美しくなるためにお肌の手入れをしていますが、ペッツはもくもくとケーキを頬張っています。
カラベラスはペッツにもお肌の手入れをするようにすすめますが、ペッツは過去に失恋した経験があり、女を外見で判断する男に嫌悪感を持っているために断ります。
いくらフラレたからってそんなにピリピリしてたんじゃ、ちっともチャーミングじゃなくてよ。
原文だとカラベラスが冷たい態度のペッツをチクリと刺すだけのセリフですね。
続いて英語吹き替え版を見てみましょう。
英文の下の日本語は意訳です。
この世界では美しいに越したことはないわ。それに言いにくいんですけど…
but it’s really kind of sad to stand here and see a woman stuffing her face with a cake just because a man dumped her.
単に男にフラレたという理由で女性がケーキを口に詰め込んでいる姿をここから見るのはとても悲しくってよ。
うっ!あんたね!
翻訳版ではカラベラスがもくもくとケーキを食べている描写に言及したセリフになっていますね。
「stuff」は「詰め込む」という意味の動詞です。「stuff A with B」で「AをBで詰め込む」という表現になります。
「a woman stuffing her face with a cake = 顔(口)をケーキで詰め込んでいる女性」となります。
単純に「食べている」と表現せずに「詰め込んでいる」と表現したところがカラベラスの煽りスキルの高さを増幅しているように思います。
というか、このシーンに関しては一心不乱にケーキをむさぼっているペッツに全く触れない原文のセリフがなんだか物足りない気がします。
結局なんで一人でホールケーキを食べていたかは本編でも謎です(笑)
まこちゃんの的確なツッコミ
ちびうさの学校行事のために、衛と一緒にカレーを作らなければならなくなったうさぎ。
当然、カレーの作り方を知らないうさぎは、恥をかかないためにまことに作り方を教えてもらいに行きます。
さて、まずは野菜を切るところからですが、予想に反してリズムよく切っているようです。
しかし、それもそのはず、まな板には何にも乗っていませんでした…(笑)
まずは原文の日本語セリフです。
テンポの良い愉快なやり取りですね。
さて、英語吹き替え版ではどのようになっているか見てみましょう。
英文の下の日本語は意訳です。
おお!良いリズムでやってるわね。
ハッハッハ!必要なのはスキルだけよ!
そして本物のにんじんもね。
「all it takes is 〜」は「必要なのは〜だけ」という決り文句です。
「All it takes is skill! = 必要なのはスキルだけよ!」と何も乗っていないまな板の上で調子よく切る真似をしているうさぎに対し、「And and actual vegetable. = そして本物のにんじんもね」と的確なツッコミを入れるまこちゃんというやり取りになっています。
ちょっとした変化ですが、英語翻訳版のほうがまこちゃんのツッコミのおかげでより愉快なやり取りになっているように思います。
日本語ダジャレもうまく翻訳!
ここからは原文の日本語のダジャレが英語版ではどのように翻訳されているのか紹介してみます。
日本語のダジャレをそのまま直訳しても英語のダジャレになるわけではないので、翻訳は非常に難しいです。
そもそも、翻訳者が日本語や日本文化に精通し、それをダジャレだと理解している必要もありますね。
なのでダジャレの翻訳はイマイチだったり、そもそも翻訳されないこともあるわけですが、セーラームーンの英語版ではうまく翻訳されているように思うのでいくつか紹介してみます。
びちょぬれの美女
突然の雨でずぶ濡れになって帰宅したうさぎ。
お母さんを呼びますが、お母さんは帰りが遅くなるとルナに告げられました。
まずは原作の日本語のセリフです。
これが本当のびちょ濡れの美女!な~んちって!
「びちょぬれの美女」というダジャレですね。
続いて英語吹き替え版を見てみましょう。
英文の下の日本語は意訳です。
それならすぐにタオルを持ってきて、ずぶ濡れだから!
I’m soaking wet and you’re my pet! How about that?
私はずぶ濡れで、あなたは私のペット!どうこれ?
あなたが(ラッパーのように)イケイケに振る舞ってるっていうのはどう?でも今はそんな時間じゃないの
まずはうさぎが「I’m soaking wet and you’re my pet!」と発言しています。
「soaking wet」で「濡れている」という意味です。
ここでは「wet」と「pet」で韻を踏んだダジャレになっているわけですね。
さて面白いのが、英語版ではこれに対するルナの返答も洒落ていることです。
うさぎがダジャレを言ったあとに「How about that?=これどう?」と聞いていますね。
それに対しルナが「How about you’re acting like a big drip but now isn’t the time for that.」と返しています。
キーとなるのは「big drip」という単語です。dripには「しずく」「水滴」の意味があります。
そして実はスラングで「イケてる奴」のような意味があります。
もともとヒップホップの間で使われるようになった言葉で、宝石をジャラジャラとしずく(drip)のように身に着けた姿を形容して、そのようなイケてる人や姿のことをdripと表現するようになったみたいです。
なので「big drip」は「超イケてる奴」のような意味合いでしょうか。
つまり、ルナは「このダジャレどう?」と聞かれたのに対抗して、まるでラッパーのような韻の踏み方、さらにうさぎがずぶ濡れで水滴をまとった姿を鑑みて「あなたが(ラッパーのように)イケイケに振る舞っているってのはどう?」と返答したわけです。ラップバトルのアンサーのような感じですかね。
ルナのセリフまでうさぎのダジャレに引っ掛けたやり取りになっているという高等な翻訳です。
しおがない子
美奈子が風邪にかかったレイのもとに看病に行き、ハチャメチャなドジを繰り広げるというシーンです。
レイのためにお粥を作って食べさせますが、塩を入れすぎていたためにレイが火を吹いて倒れます(笑)。
まずは原文の日本語セリフです。
美奈子ったら、ほんと塩がない(※しょうがない)子ね。
続いて英語吹き替え版のセリフです。
英文の下の日本語は意訳です。
ミナ、塩入れすぎ。
ええ?!またやっちゃった!
Guess I’m not worth my salt at cooking, am I?
私はどうやら役に立たないみたいね?
君のジョークじゃ何の助けにもならいよ。
さて、一見するとちんぷんかんぷんな翻訳ですね。
「I’m not worth my salt at cooking = 私は料理では塩の価値もない」とは一体?
実は「worth one’s salt」というのは「給料に見合うだけの価値がある」という意味があります。さらに、このニュアンスから「有能な、役に立つ」という意味もあります。
その昔、古代ローマでは給料として塩が支給されていたために生まれた表現です。
間違って塩を入れてしまったという文脈から、塩にまつわる熟語を持ってきたという、極めて知的なジョークになっているわけですね。
美奈子はとんでもないドジではありますが、とっさにこんなジョークを思いつく頭の回転の速さを持っているなんて、逆にすごいと思ってしまいますが(笑)
このように、北米版のセーラームーンはじっくり見ることで英語に関する多くのことを学べますし、日本語版とは違った楽しみ方をすることもできます。
興味のある方はぜひご覧になってみてください!