アニメやマンガ、小説などの創作物のジャンルの1つとして「百合」というものがありますね。
「百合」とは、女性同士の恋愛、または親密な友情を描いた作品として知られています。
さて、この「百合」を英語で言うとどうなるでしょうか?
「百合」は「lesbianism」だが…
結論を先に書くと、「百合」は「lesbianism」と翻訳されるのが一般的です。
lesbianismは名詞で「女性の同性愛」を意味します。
ちなみに日本でもカタカナ語として使われるレズビアン(lesbian)は、形容詞では「女性の同性愛の」名詞では「同性愛の女性」を指します。
なので、ジャンルとして指すときは名詞のlesbianismで良いですが、形容詞的に使う場合にはlesbianを使いましょう。
例.
lesbian manga 百合マンガ
lesbian literature 百合文学
しかし、後で詳しく解説しますが、厳密にいえば「百合」と「lesbianism」は異なるので、そのまま「yuri」と言ったほうが正しいとも言えます。
そもそも「百合」とは?
すでにご存じの方もいるかもしれませんが、簡単に「百合」の定義を再確認しておきましょう。
語源は、1970年代に男性同性愛者向けの雑誌としてあった「薔薇族(rose tribe)」の編集長が、その対義語として女性の同性愛者のことを指す「百合族(lily tribe)」という言葉を提唱したことが始まりと言われています。
男性同士の恋愛が真っ赤な薔薇に例えられていたのに対し、白く慎ましい百合の花は女性同士の恋愛というイメージにピッタリだと考えたのでしょうか。

このように生まれた「百合」は、もともとは率直に「女性の同性愛」を意味する言葉でしたが、時代とともに意味はやや変化していきます。
現在は「百合」というと「親密な女性同士の友情や、友情以上の淡い恋模様を描く、軽めの女性同士の愛」という定義として使われることが多いです。
逆に官能的な女性同士の濃密な恋愛は「レズビアン作品」として分けられることもありますが、こういった作品も「百合」として扱われることもあります。
ただし、後述しますが百合の定義は人によって様々に異なるとも言えます。
「lesbianism」と「yuri」の違いとは?
さて、上述したように「百合」というジャンルは「レズビアン作品 = lesbianism」とは厳密には違ったものであるといえます。
コミック百合姫の編集長を務める梅澤佳奈子さんはインタビューの中で、百合の定義について以下のように語っています。
女性同士ならではの関係性、もしくは片方がもう片方に抱く感情を、第三者視点から読みとるものという傾向があるかなと思います。とはいえ、どういうものを百合と捉えるかは〈百合姫〉の作家さんでも違いますし、読者もそれぞれ「これが百合」という考えを強く持っているので、そのあたりはあまり限定せず、各々の想像力に任せています。
ここで大事なのは、あくまで「女性同士ならではの関係性」という広い括りで定義されていることです。
つまり、恋愛感情とは限らず、友情や憧れ、あるいはライバル心など、あらゆる関係性が含まれているということです。
これは女性同士の恋愛を全面に押し出した「lesbianism」とは明らかに異なります。
英語版Wikipediaには「Yuri (genre)」という項目がありますが、以下のようにlesbianismとの関係も記述されています。
While lesbianism is a commonly associated theme, the genre is also inclusive of works depicting emotional and spiritual relationships between women that are not necessarily romantic or sexual in nature.
(百合が)lesbianismとよく関連付けられている一方で、百合は必ずしもセクシャルでロマンティックな関係である必要はなく、感情的でスピリチュアルな関係を描いた作品も含む。
この「emotional and spiritual relationships」という言葉は、百合というジャンルにとって非常に重要で、ジャンルとしてのアイデンティティでもあります。
BLは男性同士の恋愛を描いた作品ではありますが、これを性別を置き換えたら百合になるというわけでもありません。
先にも登場したコミック百合姫の編集長を務める梅澤佳奈子さんはBLと百合との違いについて以下のように語っています。
大きな違いは、BLはセックスから始まって恋愛のドラマは後からついてくることも多いんです。百合の場合、もちろん肉体描写を含む作品もありますけど、心がつながってからこそのセックスだったり、もしくは様々な葛藤があったうえで……という過程がしっかり描かれていないと、なかなかエモさを感じたり萌える気持ちにならないのかなという気がしています。百合は感情的な関係性が重要だと思いますね。
こうしてみると、「百合」というのは日本が生み出した特有のジャンルであり、lesbianismとは厳密には異なることが分かるかと思います。
なので『「百合」は「yuri」である』というのが究極的な結論ではありますが、百合という言葉が生まれた当時の日本がそうであったように、現在の英語圏においては浸透した言葉であるとは言えません。
日本文化に造詣の深い英語圏の方になら「yuri」として通じるかもしれませんが、一般的には「lesbianism」と翻訳したほうが伝わるでしょう。
百合の定義を英語で説明すると
以上、百合の定義を見てきましたが、英語圏の方に『「yuri」って何?』と聞かれることがあるかもしれません。
そのような時のために、英語で説明できるようにしておきましょう!
色々な言い方があるかとは思いますが、簡潔に言うならば以下のような表現が良いかと思います。
Yuri is often used to refer to manga, anime, stories that showcase relationships between women.
あくまで 「relationships between women(女性同士の関係性)」を見せる作品であるということですね。
Girls’ Loveは和製英語
ちなみにですが、百合の別名として「ガールズラブ(Girls’ Love)」という言葉があります。
これをそのまま言えばなんとなく通じそうな感じがしますが、実は和製英語なので通じない場合もあると認識しておきましょう。
ガールズラブという言葉は、2000年代に日本の出版社が当時から使われていた男性同士の恋愛を意味する「Boys’ Love」という単語を真似て作ったのが始まりと言われています。
オタクカルチャーに全く造詣のない人に「Girls’ Love」と言うと、「女の子同士の愛」というよりは「女の子の愛」と連想するでしょう。
もしくは「Girls love ~」のような文の構造が頭に浮かび、「Girls love… what?」となるでしょう。
とはいえ、最近はYuriの英語圏への浸透と共にGirls’ Loveという言葉も同じ意味として浸透してきている傾向があります。

ちなみに「Bloom into You」は百合漫画「やがて君になる」の英題
昨今では海外でも百合作品が広く認知され始めているので、「yuri」や「girl’s love」が英語でも当たり前のように使われるようになる日が来るのも近いかもしれませんね。
https://otaku-english.com/2023/05/01/if-i-could-be-a-constellation/