「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」の主人公「空条承太郎」。
彼の口癖である「やれやれだぜ」。
クールな承太郎が家族や仲間の言動や行動にあきれた時、敵との闘いに一段落した時に発言します。
2012年から始まったジョジョシリーズのアニメ化により、海外でもその人気は広まっていますが、「やれやれだぜ」はそのまま「YARE YARE DAZE」というフレーズとしてミーム化されているほど海外の方にも印象的なセリフとなっています。
さて、この「やれやれだぜ」ですが、英語版ではどのように翻訳されているのでしょうか?
北米の公式版権を取り扱っているViz Mediaから発売されているアニメ北米版「Jojo’s Bizarre Adventure Set 2: Stardust Crusaders」より紹介します。
「やれやれだぜ」は英語字幕では「Good grief.」に統一されている
本作品の北米版DVD/Blu-rayには、「英語字幕」と「英語吹き替え音声」が収録されています。
そして、「英語字幕」と「英語吹き替え音声」の英語は異なっています。
これは北米版で発売される日本のアニメ作品では一般的なことです。
そして一般的には英語字幕のほうが日本語のセリフを忠実に翻訳しています。一方、英語音声の方は、映像の尺に合わせたり、発音の際のテンポを意識してやや改変されたものになっています。
さらに傾向的には英語音声のほうが英語圏の方に自然と聞こえるような翻訳になっているようです。
さて、ジョジョの英語字幕の方では「やれやれだぜ」は「Good grief.」というフレーズで統一して翻訳されています。
以下は「やれやれだぜ」と言っているシーンの一部です。他のシーンでも同様に同じフレーズで翻訳されていました。
この「Good grief.」というフレーズですが、英英辞典を調べると下記のように記載されています。
good grief
used to emphasize how surprised, angry, shocked, etc.
驚き、怒り、ショックなどを強調するときに使われる
このように驚いたり、怒ったり、ショックを受けた時にそれを表すフレーズで、日本語で翻訳すると「おやまぁ」「なんてこった」「やれやれ」のようなニュアンスがあります。
もともとはgriefという単語は名詞で「悲しみ」という意味がありますが、悲しい場面よりも驚いた時やショックを受けた時に使われる場合が多いです。ここではもとの単語の意味は無関係だと考えて良いでしょう。
ちなみに、この「Good grief.」が口癖となっている世界的に人気なキャラクターがいます。
チャールズ・シュルツによる漫画作品「PEANUTS」の主人公「チャーリー・ブラウン」です。「スヌーピー」の飼い主と言ったほうが伝わる方が多いかもしれませんね。
さて、この「Good grief.」という翻訳が適切かというと、実は海外では賛否両論あるようです。
海外のファンから以下のような興味深い感想を見つけました。
good griefはまるで40歳のおばさんが言いそうなセリフ、拳で考えるような尖ったティーンエイジャーには似合わないね
この方が言うように実は「Good grief.」は古めかしい表現なのです。
若い人々が絶対に言わないセリフというわけではありませんが、やはり年配の方が使うことが多いみたいです。
さらにこんな意見も。
私にとってはgood griefっていうとチャーリー・ブラウンとの関連が強すぎるんだよね
前述したようにチャーリーブラウンの名言でもありますから、どうしてもそちらを思い出してしまうという否定的な意見もあるようでした。
「やれやれだぜ」は英語音声では文脈によって異なる翻訳になっている
さて、続いて英語吹き替え音声での翻訳をご紹介します。
英語字幕では統一して「Good Grief.」と翻訳されていたのに対し、英語吹き替え音声では場面によって異なる翻訳になっています。
その1:What a giant pain in my ass
まずは「What a giant pain in my ass」という翻訳です。
承太郎が最初に「やれやれだぜ」というのが、第2話の母ポリーからの熱烈なキスを受けて学校に登校するシーンですが、この初出のシーンではこちらの翻訳になっていました。
「pain in my ass」という表現ですが英英辞典には下記のように記されています。
a pain in the/my ass/butt
someone or something that is very annoying
非常に苛立たしい(ウザい)誰か、または何か
このpain in my assという表現をwhatで始まる感嘆文
What a 形容詞 名詞 (主語 動詞)※主語 動詞は省略可
という形にしています。
また、ここではgiant painというふうに、giantという強調する形容詞を使って「めちゃくちゃウザい」のような表現をしています。
その2:Give me a break
続いては「Give me a break」という表現です。
こちらのセリフが使われたシーンの例をあげると、第3話、ポリーが自分のことを「聖子」と呼んでくれと言うのに対し、ジョセフが腹を立てるシーンなどです。
英英辞典で調べると以下のように定義されています。
give someone a break
to stop criticizing or annoying someone, or behaving in an unpleasant way
誰かを非難したり、困らせたり(ウザがらせたり)、または不快な振る舞いをやめさせること
breakというのは名詞で「休憩」という意味があるので、直訳すると「ちょっと休憩をくれ」ですが、これが転じて、自分にとって不快な状況が続いてうんざりしているときに「休憩をくれ」ということで「勘弁してくれ」のような意味合いになっているわけです。
さて、先程「Good grief」が古臭い表現で年配の方がよく使うと書きましたが、この「Give me a break」という表現は現代的で若者がよく使う表現らしいです。
海外のファンの間でも、承太郎のようなティーン・エイジャーには「Give me a break」という表現のほうがよく似合っているという意見がありました。
その3:Good grief
最後は英語字幕のところで紹介した「Good grief」という表現です。英語吹き替え音声においても英語字幕版で使われいた「Good grief」というフレーズが使われているシーンもあります。
例をあげると、第6話、承太郎がアンの胸をまさぐり、怒られるシーンの後ではこのフレーズが使われています。
「やれやれだぜ」は実はジョジョの翻訳の歴史上でもばらついた翻訳になっている
このように、ジョジョの現在の公式翻訳においても「やれやれだぜ」は統一されているわけではなく、ファンの間でも小さな論争になっています。
実はこれは今に限った話ではなく、過去の公式翻訳の歴史においてもばらついているようです。
少年ジャンプの漫画の海外版であるShonen Jump Advancedでは「Give me a (fワード) break」という翻訳。
1993年と2001年に発売されたスターダストクルセイダースのOVAの英語音声吹き替えでは「What a pain」という翻訳でした。
このように、翻訳者も「やれやれだぜ」の最適な翻訳については頭を悩ませていることが分かります。
どの翻訳も正しいには違いないのでしょうが、どういった表現がキャラクターと作品に合っているかは個人の感じ方によるところが大きいため難しい問題で、正解がないと言っていいでしょう。
そう考えると「やれやれだぜ」はやはり「Yare Yare Daze」であり、代替不可能な名言なのかなと感じるところがあります。