2022年はハンターハンターファンにとっては話題の多い年でしたね!
冨樫さんのTwittter開始、冨樫義博展の開催、さらに連載再開と単行本発売とファンにとっては嬉しい限りです。
さて、ハンターハンターには心に残る名言が多数登場します。
小さい頃からハンターハンターを読んで育った筆者にとっては、その名言の影響力は計り知れません。
そして個人的にはキメラアント編における名言はハンターハンターの中でも際立っているように思います。
種族の存亡を背負った極限の戦いの中で生まれた名言は、人生における格言であったり、キャラクターの血が通った心を震わせる言葉だったりします。
今回は、筆者が選ぶキメラアント編に登場した名言が英語ではどのように翻訳されているか、解説付きで紹介します。
なお、参考にした翻訳は北米での公式ライセンスを持つViz Mediaが制作・販売している、北米版アニメ『Hunter x Hunter』の英語吹き替え音声からです。
本作に限らず、北米版アニメでは英語字幕と英語吹き替え音声の翻訳が異なる場合が多いですが、今回は英語吹き替え音声の翻訳を参考にしました。
だが…それでも、100%勝つ気で闘る!!
アニメ85話より
だが…それでも、100%勝つ気で闘る!!
それが念使いの気概ってもんさ。
The battle can turn quickly and end anytime. That’s the essense of the Nen combat.
Still, no matter what, always fight you know you’re gonna win.
That’s what it means to have the spirit of the Nen user.
キメラアントの王直属護衛軍の1人『ネフェルピトー』と対峙し、その圧倒的強さにショックを受けるキルアに対し、モラウが放った言葉です。
初め聞いた時は「実際に見てもいないくせに偉そうに言いやがって・・・」と思ったものですが(笑)、その後のモラウの活躍や生き様を見ると、まさにモラウの男気溢れる人生観が込められた言葉だったのだと気付かされます。
そして、これこそが冨樫先生が作り上げた念能力バトルの真髄を表す言葉であり、冨樫先生が描きたかった戦士の姿であったように思うのです。
「揺蕩う」という日本語ですが、英語では can turn quickly and end と表現されています。turnは自動詞では「向きが変わる」「ひっくり返る」の意味があります。
「(戦闘の)流れがすぐに変わって終わる可能性がある」と言い換えた表現にしているわけです。
that’s what it means to 〜と言う表現は、ここぞという時によく使われる表現です。「〜とはこういうことだ!」という表現で、英語らしく最初にズバッと言ってしまいます。
『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』でも、あの有名な名言の翻訳に使われている表現ですので併せて参考にしてみてください。
それでもお前の傍にいていいかな…?
アニメ85話より
Gon, you are light itself.
Sometimes you’re so bright I can’t even look at you.
But still can I stay by your side?
ネフェルピトーと対峙し、カイトを置き去りにしたという罪悪感と絶望の中、それでも前を見続けるゴンに対してキルアが心の中で思った言葉です。
闇の世界の住人だったというキルアのバックグラウンドが感じられ、同時に少年らしい純朴な願いも感じられる泣ける名言です。
「お前は光だ」のところは you are light itself と翻訳されています。you are light だけでも良いですが、itself = 「そのもの」とつけることによって、「お前は光そのものだ」と強調するような言い回しになっています。
また、人によるかも知れませんが、声に出して呼んだ時のリズム感というか収まりも良くなるという効果もあります。
代案も出さず正義面だけしたいってのは虫がよすぎないか!?
アニメ98話より
オレ達で出来ることだけやろう…!そのかわり全力で…!命をかけてだ!!
If blaming me consoles you at all, then go ahead. But unless you’ve come up with a better idea, I would advise you not to be too self-righteous.
We must do what we can. And we have to put our all into it, even if it means our lives.
キメラアントによる国民選別を阻止するか否かで対立するナックルとシュート。ナックルは人間が殺されていくのを見殺しにできないと熱くなりますが、シュートは人類を救うために冷静になって自分たちの存在を隠すことに賛成します。
感情的で熱くなるナックルに対して、冷静で論理的に正論パンチを繰り出すシュート。会社や学校で反対意見ばかり出してくる非生産的な人々にぜひとも使ってみたい名言です(笑)
But unless you’ve come up with a better idea, I would advise you not to be too self-righteous.の部分は直訳すると「もしお前がより良いアイデアを思いつくことができないなら、自己中心的になりすぎるなと忠告するぞ」となります。
come up with 〜 は「アイデアなどを思いつく、考えつく」という表現です。非常に実用性のある表現です。英会話でとっさに言葉が出ないときに、I can’t come up with words.などと使うこともできます。
「虫が良い」という表現は、self-righteousという表現をされています。self-righteousは「独善的な」「自己中心的な」「自分だけが正しいと思っている」という意味です。
境なんて、あってねェようなもんさ。
アニメ102話より
境なんて、あってねェようなもんさ。
I could immediately sense you an inhuman beast lurking deep within you.
That’s why I wanted to team up with you, because we’re not all that different, you and I.
ゴンとメレオロンが意気投合し、王討伐のためにチームを組むことになったときのセリフです。
ゴンはメレオロンに人間臭さを感じたために信用する気になったと話したのに対し、メレオロンはゴンに怪物性を感じたために組む気になったと話します。
人間の中に潜む狂気、そして人外の中にある人間らしさ、見てくれだけでは判断することのできない生命の本質という富樫先生のこれまでの作品に込められたメッセージを表した言葉でもあると思っています。
lurkは「〜に潜む」「〜に潜伏する」という意味の動詞です。「inhuman beast lurking deep within you = お前の奥深くに潜む非人間的な獣性」と言い換えています。
「境なんて、あってねェようなもんさ」の部分は 「We’re not all that differnt, you and I. = 俺たち、俺とお前はそんなに違ってねェさ」と言い換えられています。
ちなみに英語字幕版ではThere’s no line between us.と翻訳されています。こちらのほうが原文に近い言い方かなと思います。
だがそんなもんじゃねェだろ。漢の闘ってのはよ。
アニメ106話より
Still, it might make more sense to attack before he reveals what he can do, but, no, that’s not how a man fights.
レオルと直接対決することになった時のモラウの言葉です。レオルが能力を出すのを待つモラウ。能力を出す前に攻撃することの優位性を知っていながらも、モラウの美学がそれを阻みます。モラウって本当に戦士ですよね〜。
「正論」という言葉ですが、ここではmake senseという言葉で表現されています。make senseは「筋が通っている」「辻褄が合う」「意味がわかる」といった意味持つ表現です。
日常会話でも気軽に使うことができ、例えば相手の言っていることがわかって「なるほどね」と言いたいときには、It makes sense.と言えます。
友達が友達助けるのは当然だろ。
アニメ107話より
これから色々協力してやってく時があるだろうけど、サポートし合うのは特別なことじゃねーからな。
当たり前のことで礼を言い合うのはかっこ悪いだろ?
Friends are supposed to help each other out.
I’m sure that you and I will be helping each other out all the time from now on, but helping out your friends isn’t anything special. It’s expected, you know?
So let’s just cut all the formalities, okay? It’s not worth it.
キルアがイカルゴに助けられ、一緒に行動することになった時のセリフです。
これから助け合うようなことがあっても、いちいち礼なんて言わないぞと言い、その理由を説明したセリフです。
完全に信頼し合った関係の上で成り立つ、ハードボイルドな世界に生きる男たちのマナーという感じでカッコいいです。
と言いつつ、キルアはけっこう友達に「サンキュー」って言ってる感じもしますが(笑)
「be supposed to 〜」は「〜するはずだ」「〜することになっている」ということを表す表現です。原文の「当然」のニュアンスを表しています。こちらの表現は意外とよく使われるものなので覚えておいて損はないです。
「当たり前のことで礼を言い合うのはかっこ悪いだろ?」の部分は So let’s just cut all the formalities, okay? It’s not worth it. と、やや言い換えた翻訳になっています。
formalityは「形式的な行為」や「堅苦しさ」という意味があります。つまり「堅苦しいことはやめようぜ?意味がねーだろ」といった翻訳になっています。
そりゃ悪手だろ。蟻んコ
アニメ111話より
I anticipated several offensive and deffinsive patterns.
But that was a bad move, little ant.
ついに作戦決行時間となり宮殿に突入するという極限の緊張の中、読者に圧倒的なトラウマと強さを見せつけてきたネフェルピトーに対峙したネテロ会長が発した名言です。
この短いセリフだけで、ネテロの圧倒的な戦闘経験の豊富さを感じ取ることができます。ネフェルピトーのことを「蟻んコ」と呼ぶのも痺れます。
anticipateは「予想する」「予測する」「先読みして手を打つ」を意味する動詞です。
似た意味の単語としてexpectやpredictがあります。どれも「予想する」という意味の動詞ですがニュアンスが微妙に異なります。
anticipateは「結果を変えられるものに対して予想する」といった意味です。
expectは「結果を待つだけのものに対して予想する」といった意味です。
predictは「根拠をもとに予想する」といった意味です。
文脈によっては置き換えられる場合も多いので、そこまで気にすることはないと思いますが、頭に入れておくと良いでしょう。
「悪手」は bad move、「蟻んコ」は little ant と翻訳されています。
ネテロの拳は、音を置き去りにした。
アニメ111話より
When Netero came down from the mountains, it seemed that his fists had left sound behind them in their wake.
名言、というか正確にはナレーターの解説ですが、印象深い言葉のため今回選んでみました。
「一日一万回 感謝の正拳突き」を続けたネテロの身に起こった現象を表した言葉です。
「ネテロの拳は、音を置き去りにした。」は his fists had left sound behind them in their wake. と翻訳されています。
wakeは「起きる」という動詞の意味が有名ですが、名詞では「出来事などの結果」という意味があります。また、in one’s wake と言うと「〜の後に」という意味になります。
世界より大事なものがあるんです!!
アニメ117話より
世界より大事なものがあるんです!!
Sorry, master, but the thing is, we’re both idiots.
Some things are more important than saving the world.
命を賭した戦いに望んだシュートの覚悟を、ユピーに侮辱されたと分かったナックル。作戦を確実に成功させるため―つまり人類を救うためには、おとなしく姿を隠すべきのナックルですが、ナックルの心がそれを許しません。
客観的に見れば愚と見られる判断ですが、それよりも大事なものに人は突き動かされているのだと認識させてくれる名言です。
ここでは the thing is, 〜 という言い方をしていますね。
the thing is は何か強調したいことを言う前に使われる前置きの言葉で、「要するに」「つまり」「結局」「何が言いたいかというと」といった意味で捉えることができます。
このセリフではなくとも意味は伝わりますが、この表現が加わることにより、英語的にはよりスムーズな言い回しになっています。
じゃあ聞けねーし、聞かねーよ?
アニメ121話より
……じゃあ聞けねーし、聞かねーよ?
You’re positive, right? Can’t you tell me? Don’t you want to?
I can’t ask, and I won’t.
キルアはゴンのところに戻るとメレオロンに告げます。メレオロンは心配しますが、キルアは気丈に振る舞って心配するなと語ります。
しかし、実はメレオロンはそれ以前のキルアの悲しそうな表情を見ていたのでした。
何も語らないキルアに対し、メレオロンは仲間として、友として、相手を気遣い信頼してあえて何も聞かずに立ち去るのでした。
人によっては「声をかけたほうがいい」と思われる場面かもしれません。実際、海外の方の反応を見ていると「抱きしめてあげるべきだ」なんて声も見られました(笑)
しかし、一概には言えませんが日本人の我々としてはメレオロンの気持ちが痛いほど分かるのでは?と思ってしまいます。大事に思うからこそ、友だからこそ立ち入らないという場面はありますよね。
「いいんだな……?」のところは You’re positivie, right? と翻訳されています。
positiveという単語は実に色々な意味がありますが、ここでは「確かな」「疑いようのない」の意味で捉えて良いと思います。「(大丈夫ということが)確かなんだよな?」というニュアンスです。
日常生活では、何か疑わしいことを聞いた時に「Are you positive? = 本当に?」と使うことができます。
そんなんじゃねェだろ!!オレが求めた武の極みは
アニメ125話より
敗色濃い難敵にこそ全霊を以て臨む事!!
That’s not the height of perfection that I sought for so long!
I have always dreamt of giving my heart and soul to battle an unstoppable adversary.
ついにメルエムと正面対決することになったネテロ。武の極みを求め続けたネテロですが、いつからか敵の攻撃を待ち、敗者をねぎらうという行為に慣れ、挑戦者としての姿勢が失われていることを認識していました。
そして今まさに、挑戦者となったネテロの渾身の覚悟と戦士としての生き様がこの言葉に溢れています。
the height of 〜 で「〜の極地、絶頂」、perfectionは「完璧」。つまり「the height of perfection」で「完璧の極地」という意味になります。
soughtはseekの過去形です。seek for 〜 で「〜を探し求める」という意味です。
「敗色濃い難敵にこそ全霊を以て臨む事!!」の部分は「I have always dreamt of giving my heart and soul to battle an unstoppable adversary. = 俺は不屈の敵との戦いに対し心と魂を注ぐことをずっと夢見てきた。」とかなり意訳になっていますね。
adversaryは「敵」という意味。unstoppable adversaryで「止めることのできない敵 = 不屈の敵」という意味になります。
感謝するぜ お前と出会えた これまでの全てに!!!
アニメ125話より
I’m grateful… grateful for everything that’s led me to this point and to you!!!
メルエムと全力で対決するために、メルエムを地下空間に連れ込んだネテロ。メルエムは人類の脅威でありながら最強の敵ですが、同時にネテロが追い求めた武の極みを体現できるような好敵手であります。そんな相手と出会えたことに感謝するネテロの印象的な名言(とポーズ)です。
gratefulは「感謝する」「ありがたく思う」という形容詞です。
ledはleadの過去形で、lead 人 to 〜 で「人を〜に導く」という意味になります。
人間の底すら無い悪意を
アニメ126話より
人間の底すら無い悪意を
Meruem, king of the ants, you really don’t have any idea, do you?
You know nothing of the bottomless malice within the human heart.
ネテロの最終奥義をもってしてもメルエムは倒せず、メルエムはネテロに負けを認めて名前を言うように促します。
ネテロは、彼の名前を言うと同時に、不敵な笑みを浮かべて意味深な笑いを浮かべてこのセリフを言いました。
原作のセリフでは、悪意と書いて進化と呼ばせているのも深い意味が込められています。
bottomlessは形容詞で「底なしの」「底知れない」「計り知れない」の意味。
maliceは名詞で「悪意」「敵意」「恨み」の意味です。
もうこれで終わってもいい。
アニメ131話より
だから、ありったけを。
I don’t care what happens to me now.
I need all the power I’ll ever have.
カイトを取り戻すという揺るがぬ意思で戦いに臨んできたゴンですが、それがかなわないと悟ったゴンは、怒りに震えると共に自暴自棄に陥ります。その時の覚悟が、ゴンを思いもよらぬ姿へと変貌させます。
その時のゴンの姿は衝撃的で、「ゴンさん」という、半ばネットミームと化しました。
当時、私はゴンがネフェルピトー相手に勝てるわけがないと思っており、いったい冨樫先生はどう決着をつけさせるつもりなのだろうと考えていましたが、私の想像を超えるストーリー展開で度肝を抜かれました。
「もうこれで終わってもいい」はI don’t care what happens to me now.と翻訳されています。直訳すると「何が起こったとしてもオレは気にしない」ですね。
「だから、ありったけを」はI need all the power I’ll ever have. つまり「これからオレが持つであろうありったけの力が必要だ」と翻訳されています。
英語だと主語、目的語などを明確に表現する傾向があるので、どうしても説明口調になってしまいます。
「だから、ありったけを」なんかは、やはり日本語のそぎ落としたセリフの方がインパクトがあるように思います。
殉じよう。己の信念に。ただ、それだけの事。
アニメ134話より
殉じよう。己の信念に。
ただ、それだけの事。
Even then, I was prepared. I already knew that I was going to die.
I will sacrifice myself to my own loyalty.
Nothing less, nothing more.
プフの隠し事を賭けた余興の最中、メルエムはウェルフィンに出会います。ウェルフィンから隠し事が漏れることを懸念したプフはメルエムに、ウェルフィンへの質疑を後回しにするように進言します。しかし、ウェルフィンがメルエムに敵意を持っていたことから、メルエムはプフへその意図を答えるように促します。
その圧倒的な凄みの中でも、プフは王への忠義のために、例え命を失う可能性があるとしても答えることを拒否するのでした。
プフの狂信的な性格を表現し、敵ながら絶対的な信念を貫き通すその覚悟に、畏怖の念を感じざるを得ない名言です。
プフの口癖である「ただ、それだけの事」は、英語吹き替え音声では Nothing less, nothing more. と翻訳されています。直訳すると「それ以下でもないし、それ以上でもない」となっており、英語的にうまくスマートにまとめた翻訳だと思います。
この瞬間のために生まれてきたのだ…!!
アニメ135話より
Yes, I see it now.
This is why I was born, for this moment.
コムギと再会を果たし、自分の死を伝えるメルエム。そしてコムギからは思いもよらぬ返答が帰ってきました。
キメラアントの頂点として圧倒的な力を持って産まれてきたメルエム。しかし、自身の存在理由に疑問を抱くようになっていたメルエムは、この時にやっと自分が何のために生まれてきたかを悟るのです。
長い時間をかけて連載してきた、壮大で緻密な、冨樫先生の集大成ともいえるキメラアント編を締めくくるにふさわしい、涙なしには読むことのできない名言です。
seeという単語は、どうしても「見る」というイメージが強い言葉ですが、「理解する」という意味もあります。
相槌で I see. という表現がありますが「なるほど」と理解できたことを表すフレーズです。