荒木飛呂彦さんによる『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの第三部『スターダストクルセイダース』。
英語版ではキャラクター名やスタンド名はどのように翻訳されているのでしょうか?
実は中には日本語とは違う名前で翻訳されているものもあるのです!一体なぜでしょうか?
今回はスターダストクルセイダースに登場するキャラクター名とスタンド名の英語版を解説とともに紹介します。
ジョジョの海外展開に関する背景
まずはジョジョシリーズの海外展開に関して簡単にご説明しておきます。
「スターダストクルセイダース」の少年ジャンプ誌上での連載開始時は1989年でしたが、それから約25年たった2014年にTVアニメが放映され大きな話題を呼びました。
2014年でのTVアニメの放映で特筆すべきだった点が、海外での大きな反響でした。
そもそもジョジョ第1部からのTVアニメが始まったのが2012年からです。その際に、原作である漫画も含めたジョジョシリーズの北米展開も動き始めました。
実をいうと、それ以前にもジョジョシリーズの北米展開はあったのですが、その際の市場からの反応はあまり良いものではありませんでした。
最初のジョジョシリーズにおける漫画原作の英語翻訳版は、2005年にスターダストクルセイダースのみでペーパーバック版が発売されました。なんでいきなり第三部なのかとツッコミどころ満載ですが、そこはビジネスです。北米において人気が出そうなのがスターダストクルセイダースと判断したのでしょう。
最初に発売されたのが2005年でスターダストクルセイダースの完結まですべて発売されたのが2010年です。実際のスターダストクルセイダースの連載期間が約3年なので、それ以上かかったことになります(笑)
やる気がなかったというか、売れ行きがあまり良くなかったので力を入れることができなかったのではないでしょうか。
しかし、2014年のジョジョシリーズのTVアニメ化で海外ブームの潮目が変わります。
オンデマンドでの動画配信サービス、北米を始めとした全世界的なオタクカルチャーのブームなどが後押ししたのでしょうが、私は「世界の時代がジョジョに追いついた」と考えています(笑)
アニメの方は、2014年の日本での放映以来、すべての作品で英語吹き替え/英語字幕つきのDVDやBlu-rayが北米において発売されています。ちなみに発売しているのはViz Mediaというアメリカのサンフランシスコにある会社ですが、小学館と集英社が共同で所持している会社です。
漫画の方は2015年より海外ファン待望のハードカバー版が第1部から順に翻訳・発売されていっています。
このように近年になって海外で精力的に普及されているジョジョですが、海外での反響は非常に大きいです。
第6部ストーンオーシャンは海外での人気に応えて、ネットフリックスにおいて全世界先行配信でスタートされました。
その独特な表現やセリフから、海外ではミーム(インターネット上のネタ画像や動画)と化し、そのミーム経由から作品本編を視聴するという流れも多いようです(これは日本でも近い現象がありそうですが)。
キャラとスタンドの英語名一覧
さて、それではさっそくスターダストクルセイダースにおけるキャラとスタンドの英語翻訳名一覧をご紹介します。
ちなみに今回ご紹介するのは2018年にViz Mediaより発売された『JoJo’s Bizarre Adventure Set 2: Stardust Crusaders』からの引用です。
実は北米版漫画や動画配信サイトなどによっては、こちらで紹介したものと違う名前が使われたりしていますがここでは割愛させていただきます。
キャラクターの多くは日本語名がそのまま英訳されていますが、中には異なっているものもありますね。
理由は後ほど説明しますのでまずは御覧ください。
キャラクター名 | スタンド |
---|---|
空条承太郎 Jotaro Kujo |
スタープラチナ Star Platinum |
ジョセフ・ジョースター Joseph Joestar |
ハーミットパープル Hermit Purple |
モハメド・アヴドゥル Muhammad Avdol |
マジシャンズレッド Magician’s Red |
花京院 典明 Noriaki Kakyoin |
ハイエロファントグリーン Hierophant Green |
ジャン=ピエール・ポルナレフ Jean Pierre Polnareff |
シルバーチャリオッツ Silver Chariot |
イギー Iggy |
ザ・フール The Fool |
グレーフライ Gray Fly |
タワー・オブ・グレー Tower of Gray |
偽キャプテン・テニール Impostor Captain Tennille |
ダークブルームーン Dark Blue Moon |
フォーエバー Forever |
ストレングス Strength |
呪いのデーボ Devo the Cursed |
エボニーデビル Ebony Devil |
ラバーソール Robber Soul |
イエローテンパランス Yellow Temperance |
ホル・ホース Hol Horse |
エンペラー Emperor |
J・ガイル Centerfold |
ハングドマン Hanged Man |
ネーナ Nena |
エンプレス Empress |
ズィー・ズィー ZZ |
ホウィール・オブ・フォーチュン Wheel of Fortune |
エンヤ婆 Enyaba |
ジャスティス Justice |
スティーリー・ダン Dan of Steel |
ラバーズ Lovers |
アラビア・ファッツ Alabia Fats |
サン Sun |
マニッシュ・ボーイ Manishu Booi |
デス・サーティーン Death Thirteen |
カメオ Kameo |
ジャッジメント Judgement |
ミドラー Rose |
ハイプリエステス High Priestess |
ンドゥール N’Dool |
ゲブ神 Geb |
オインゴ Zenyatta |
クヌム神 Khnum |
ボインゴ Mondatta |
トト神 Tohth |
アヌビス神 Anubis |
|
マライア Mariah |
バステト女神 Bast |
アレッシー Alessi |
セト神 Set |
ダニエル・J・ダービー Darby Elder |
オシリス神 Osiris |
ペット・ショップ Pet Shop |
ホルス神 Horus |
テレンス・T・ダービー Darby Younger |
アトゥム神 Atum |
ケニーG Billie Jean |
ティナー・サックス Tenore Sax |
ヴァニラ・アイス Cool Ice |
クリーム Cream |
DIO(ディオ・ブランドー) DIO (Dio Brando) |
ザ・ワールド The World |
なぜ英語版では名前が変更されている?
さて、お気づきかと思いますが一部のキャラクター名は日本語名から異なったものが使用されています。
J・ガイル → Centerfold
オインゴ → Zenyatta
ボインゴ → Mondatta
ケニーG → Billie Jean
などですね。
なぜ変更されているかと言うと、パブリシティ権(氏名権)の問題を回避するためだと考えられます。
ファンの方や洋楽に精通している方ならご存知かと思いますが、これら原作で使われている名前は実在するアーティストの氏名をモチーフとしています。
北米において、これら実在する人物する名前をそのまま使うとパブリシティ権の侵害となり、多額の賠償金が発生するリスクがあると考えたのでしょう。何しろアメリカは訴訟大国ですからね…。
そして実は変わっていないように見えて実は変わっている名前も存在します。
例をあげると、
カメオ → Kameo
です。
カメオの由来はアメリカのR&Bバンド「Cameo」だと考えられています。
これをそのまま使ってしまうとパブリシティ権または著作権を侵害してしまう恐れがあるので、わざわざ綴りを変えて名前をつけているわけです。
ただし、中には由来のアーティスト名の綴りをそのまま使っているものもあります。
マライア → Mariah (アメリカの歌手Mariah Careyから)
アレッシー → Alessi(アメリカのポップデュオAlessi Brothersから)
これらは名前として一般的なので使ってもセーフと考えたのでしょう。この辺のさじ加減はよく分からんです(笑)
また、スタンド名に関してはタロットカードやエジプト神話を由来としておりパブリシティ権の侵害にはあたらないので、そのまま使われています。
ただし、マライアのバステト女神は「Bastet」ではなく「Bast」となっています。
調べてみたのですが、どちらもバステト女神を指す名前で、Bastは古い名前で、時代が経つにつれBastetと呼ばれるようになったそうです。
(参考:https://blog.prepscholar.com/bastet-egyptian-cat-goddess)
ちなみに第5部「黄金の風」ではスタンドにバンド名やアーティスト名を由来としたものがそのまま多く使われているので、大幅に改変されているものが多いです。
解説
ここからは面白い英語名の翻訳について解説してみます。
ラバーソール → Robber Soul
シンガポールにて登場した「ラバーソール」。スタンド「イエローテンパランス」を使います。
そして、その英語名は「Robber Soul」となっています。
「え?そのままじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実は微妙に改変させています。
ラバーソールの由来ですが、ビートルズのアルバム「Rubber Soul」から取られています。
「Rubber」は「ゴム」という意味なので、「ゴムの魂」というタイトルですね。
さてジョジョの英語名の方は「Robber Soul」です。よく見ると綴りが違います。
「Robber」というのは「強盗」の意味です。つまり「強盗の魂」です(笑)
著作権の侵害を避けるために、あえて似た発音の単語で代用したのだと考えられます。
そのゲスいキャラクター的にはピッタリの名前だと思いますね。
J・ガイル → Centerfold
ポルナレフの憎き敵、エンヤ婆の息子である「J・ガイル」。
J・ガイルの由来はアメリカのロックバンド「The J. Geils Band」からです。
さて、その英語名は「Centerfold」となっています。「Centerfold」を辞書で調べると「雑誌の中央見開きページのこと」とあります。
なんでこんな翻訳にしたんだ?と疑問に思いますが、実はしっかりとした理由があるのです。
由来となった「The J. Geils Band」の大ヒット曲の1つに「Centrefold」というものがあります。高校時代の憧れの女性が男性誌の見開きピンナップページ(Centrefold)に載っていることにショックを受けた青年の物語の曲です。
ちなみにこの曲の邦題は「堕ちた天使」として日本では発売されました。なかなか洒落た翻訳ですね。
※centerfoldとcentrefoldはどちらも正しいです。
centreはどちらかというとイギリスで使われる場合が多いです。
つまり、ジョジョの英語名は、バンド名の代わりに、そのヒット曲の方から付けたわけですね。
エンヤ婆 → Enyaba
エンヤ婆の英語名は「Enyaba」となっています。
「婆」の部分も名前の中に含まれているわけですね(笑)
一部の翻訳では「Enya the Hag」と原作に近い表現になっています。「Hag」は「ババア、クソババア」の意味です。間違っても「おばあさん」の意味で使わないように!
マニッシュ・ボーイ → Manishu Booi
相手を悪夢の中に引きずり込む恐ろしいスタンド「デス・サーティーン」を使う赤子のスタンド使い「マニッシュ・ボーイ」。
由来はアメリカのブルースミュージシャンMuddy Watersが作った曲「Mannish Boy」です。
「Mannish」は「男っぽい」とか「男勝りの」という意味なので、「男勝りの少年」の意味合いです。
そしてその英語名は「Manishu Booi」となっています。これも著作権に配慮して、もとの発音を残した名前をつけていると思われます。
ちなみにどちらもそんな英単語はないので、まったくでたらめの造語です。
オインゴ・ボインゴ → Zenyatta Mondatta
「オインゴ・ボインゴ」兄弟はアメリカのニューウェーブバンド「Oingo Boingo」を由来としています。
そしてその英語名は「Zenyatta Mondatta」に変更されています。
一体なぜこの名前がつけられたのだろうかと調べてみると、イギリスのロックバンド「The Police」のアルバムに「Zenyatta Mondatta」というのがあることが分かります。
ちなみにこのタイトルは造語らしいので意味はありません。
さて、ここで疑問なのが、著作権やパブリシティ権に配慮して実在のアーティスト名や曲名をとことん避けているのに、なぜ「Zenyatta Mondatta」はOKなのか?(笑)
これは私の推測なのですが、Viz Mediaは北米向けに流通させているので、イギリス出身でおそらくイギリスの法律の管轄下にあるPoliceは北米においては管轄外、もしくは北米では大目に見てくれるのではないか…と考えたのではないでしょうか?
(知っている人いたら教えてください)