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不思議な英語表現『all she wrote』の意味と語源とは?

© LUCKY LAND COMMUNICATIONS/ 集英社・ジョジョの奇妙な冒険GW製作委員会
『Jojo's Bizarre Adventure: Golden Wind - Part 1』より

海外ドラマや映画を見ていると、「That’s all she wrote.」という表現が出てくることがあります。

直訳すると「それが彼女の書いた全てだ」という意味ですが、文脈を考えるとまったく通じず、ちんぷんかんぷんな表現となります。

実はThat’s all she wrote.は「何かが突然終わること」を意味する表現なのです。

今回はこの表現に関して、北米版「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」に実際に出てきたシーンを引用し、解説します。

また、その語源についても詳しく紹介してみます。

実際のシーンから紹介

「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」10話より

暗殺チームのもとに差出人不明の謎の荷物が送られてきます。
暗殺チームの一人であるギアッチョは、正体不明の差出人に苛立ちます。

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『Jojo’s Bizarre Adventure: Golden Wind – Part 1』より
ギアッチョ
ギアッチョ
This is getting out of hand.
手に負えなくなってきたな。

Who’s sending these?
だれがこんなものを送ってきてるんだ?

If I had a name, that’d be all she wrote.
もし名前さえ分かれば、そいつはそれで終わりなのに。

「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」15話より

プロシュートは、自らがとどめを刺したはずのミスタのスタンドが生きていることに驚きます。

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『Jojo’s Bizarre Adventure: Golden Wind – Part 1』より
プロシュート
プロシュート
What? Why the hell is Mista’s stand here?
なんだ?一体何でミスタのスタンドがここにいる?

I emptied my freaking gun into his skull at point-blank range.
至近距離であいつの頭蓋骨に銃の弾が空になるまで撃ち込んだんだぞ。

That should have been all she wrote for him, so how could that thing have gotten ice in here.
あれであいつは終わったはずなのに、どうやってあのスタンドがここに氷を持ってきてるんだ。

empty
[動詞]空(から)にする
※形容詞で「空(から)の」のイメージが強いが、動詞としても使う

freaking
f●ckingの婉曲表現

poin-blank range
[名詞] 至近距離

解説

all she wroteはよくThat’s all she wrote.のように使われ、何かが突然終わることを意味します。何かというのは希望や計画だったり、物語だったりと色々なものが入ります。
これで終わり」や「これでおしまい」のような翻訳になります。
別の英単語に置き換えるなら、単純にendとなります。
また、別の表現で言うなら、It’s all over.やThere’s no more to be said.なども考えられます。

上記、「ジョジョの奇妙な冒険」の例では人の命に対して使われており、「人の命がおしまいになる」という意味合いでも使われることがわかります。

それにしても不思議な表現ですね。直訳すると「彼女が書いたすべて」です。
一体「彼女」とは誰のことなのでしょう?

この不思議な表現に関して、語源を紐解いてみましょう。

実は、この表現のはっきりとした語源は不明瞭ではありますが、いくつかの説はあります。

最も有名な説は、第二次世界大戦中に海外で従軍していたアメリカ兵が受け取る手紙にまつわる話です。

当時、海外で長い期間従軍しているアメリカ兵は、祖国に残した妻や彼女から手紙を受け取ることがありました。
そして手紙を受け取ると、同僚との間でこんな会話が繰り広げられることがありました。

同僚が手紙になんと書いてあったかと尋ねると、こう答えるのです。
Dear John… That’s all she wrote. ー 親愛なるジョンへ…それが彼女の書いた全てだったよ。

実はDear Johnというのは、当時、別れの際に送りつけられる絶縁状を意味した暗喩表現でした。
男性が長い兵役で祖国に帰ってこないために、残されて耐えられなくなった妻や彼女が、絶縁状を送りつけるという現象が多発していたのです。
Dearから始まる手紙の後に、予期せぬ別れ話が書き込まれているのでした。
当時、Johnというのはありふれた名前だったので、代表的な男子の名として使われたのでしょう。
これらをDear John Letterと呼び、アメリカ兵の間で悲劇的な話として使われていました。

つまり、That’s all she wrote.というのは、Dear John Letterを受け取った際に、話のオチのように使われていたパンチラインでした。
このように、2人の関係の突然の終わりを意味していたものが転じて、物事の終わりを意味するようになったという説です。

もう1つの説は、1942年にErnest Tubbによって収録された「That’s All She Wrote」というカントリーソングが語源となっているというものです。

その曲の中には以下のような歌詞があります。

I got a letter from my mama, just a line or two
俺の妻から、たった1行か2行かの手紙を受け取った

She said listen daddy your good girl’s leavin’ you
聴いて、私はあなたのもとから離れていくのよって

That’s all she wrote – didn’t write no more
それが彼女が書いた全てだったーそれ以外何も書いていなかった

She’d left the gloom a hanging round my front door.
彼女は暗闇を私の玄関の前にぶらさげたままにしていった

このように、この曲は2人の別れを意味する曲です。
歌詞の中で、彼女が書いた手紙が2人の別れを告げるものであり、それがThat’s all she wrote.ーそれが彼女の書いた全てだったよ と言っています。
これが転じて、突然の物事の終わり全般を表すようになったという説です。

しかしながら、1935年の新聞では、すでにThat’s all she wroteが物事の突然の終わりを意味する文脈で使われていたようなので、Ernest Tubbは当時すでに使われていた表現を拾っただけなのではないかとも言われています。

ただ、曲を通してこの表現を広めた重要な人物であったことには間違いなさそうです。

(参考:https://www.phrases.org.uk/meanings/thats-all-she-wrote.html

いかがでしたか?

語源を調べてみると、なんとも悲しげで想像力を掻き立てる表現であることが分かったと思います。

日常生活でもさらりと使ってみたい表現です。

今回引用した「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」の北米版ですが、文学的な表現が多く、非常に英語の勉強になる作品となっています。

以下の記事では、英語学習に向いているのかを詳しく解説していますので、ぜひご覧になってみてください。

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