鬼滅の刃1話に出てくる富岡義勇さんの名言「生殺与奪(せいさつよだつ)の権を他人に握らせるな!」ですが、英語版ではどのように翻訳されているのでしょうか?
また、その後に続く心震わせる語りも英語だとどうなるか気になりますよね?
今回はFUNIMATIONから出ているアニメ鬼滅の刃の北米版である「Demon Slayer」をもとに、吹替版音声からその英訳を解説してみます。
そもそも『生殺与奪の権』とは?
英語の訳を確認する前に『生殺与奪の権』の意味について確認しておきましょう。
生殺与奪の権利(せいさつよだつのけんり)とは、他人に対して「生かす」か「殺す」かを選択できる権利のこと。「相殺(そうさい)」と同じ読み方と類推して「せいさいよだつ」と慣用的に読まれることもある。「生殺与奪の権」と使われることが多い。
出典:Wikipedia
つまり『生殺与奪の権を他人に握らせるな!』というのは、「生きるか死ぬか選ぶ権利を他人に握らせるな!」と言っているのですね。
日本語のセリフを確認
まずは日本語のセリフを確認しておきましょう。
少し長いですが「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」に続くセリフも掲載しました。
個人的にはその後に続くセリフのほうが心に響きます…。
生殺与奪の権を他人に握らせるな!
みじめったらしくうずくまるのはやめろ!
そんなことが通用するなら お前の家族は殺されていない!
奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が妹を治す?
仇を見つける?笑止千万!
弱者には何の権利も選択肢もない。
悉く強者にねじ伏せられるのみ!
妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない。
だが鬼共がお前の意思や願いを尊重してくれると思うなよ。
当然俺もお前を尊重しない。
それが現実だ!なぜさっきお前は妹に覆い被さった?
あんなことで守ったつもりか?
なぜ斧を振るわなかった?
なぜ俺に背中を見せた?
そのしくじりで妹を取られている。
お前ごと妹を串刺しにしても良かったんだぞ!泣くな、絶望するな。そんなのは今することじゃない。
お前が打ちのめされてるのは分かってる。
家族を殺され、妹は鬼になり、つらいだろう、叫び出したいだろう。
分かるよ。俺があと半日、早く来ていれば、お前の家族は死んでなかったかもしれない。
しかし、時を巻いて戻す術はない。
怒れ。許せないという強く純粋な怒りは、手足を動かすための、揺るぎない原動力になる
脆弱な覚悟では、妹を守ることも、治すことも、家族の仇を討つことも、出来ない!©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
『Demon Slayer: Kimetsu No Yaiba – Part 1』より引用
実際のシーンで確認
それでは実際のシーンを英語で見てみましょう。
英語吹き替え音声を文字起こししたものです。また、英語の下に書いている日本語訳は私の意訳です。
原文のセリフとの違いを確認したい場合は、上に書いたセリフと照らし合わせてください。
Don’t grovel like that and give your enemies a chance to kill you!
そんなふうに這いつくばって敵に殺されるような隙を与えるな!
All you’re doing is making yourself vulnerable!
お前がやっていることはお前自身を攻撃されやすくしているだけだ!
If it were even a little bit effective, your family would still be alive right now!
そんなものが少しでも効果的なら、お前の家族は今も生きていた!
How can a weakling like you have any hope of finding a way to heal his sister?
お前みたいな弱虫が妹を直す方法を見つけたいだと?
Or hunt down a demon?
鬼を倒したいだと?
Don’t be ridiculous! The weak have no rights!
笑わせるな!弱者には権利などない!
They don’t get to make choices!
選択することもできない!
All they can do is be relentlessly crushed by the strong!
できるのは容赦なく強者に潰されることだけだ!
Now maybe the demons know of a way to cure your sister, maybe.
もしかしたら鬼なら妹を直す方法を知っているかもしれない、もしかしたらだ。
But don’t think for even a moment that any one of them is going to respect your wishes, just like I have no respect for you! That’s reality.
だが奴らが1人でもお前の望みを尊重すると思うなよ、俺がお前を尊重しないようにな!それが現実だ!
And why the hell did you throw yourself over her like that?
さっきお前はどうして妹に覆いかぶさった?
Was that your way of protecting her?
それがお前の妹を守る方法か?
Why didn’t you swing that hatchet?
なぜお前は斧を投げなかった?
And why would you ever turn your back to me?
そしてなぜお前は俺に背中を向けた?
Those mistakes are what led to her capture!
そういう失敗が妹を獲られることにつながったんだぞ!
I could’ve easily just skewered the both of you and been done with it!
俺が二人とも串刺しにして終わらることだってできたんだぞ!
Don’t cry. Don’t succumb to a sorrow.
泣くな。悲しみに屈服するな。
This isn’t the time to despair.
今は絶望する時ではない。
I know you’re devastated right now.
お前が打ちひしがれていることは分かっている。
Your family was massacred, your sister is a demon.
家族が殺され、妹は鬼になっている。
I know it hurts. I know you want to scream. I understand.
辛いのは分かる。叫びだしたいのも分かる。理解するよ。
If only I’d gotten here a half-day sooner, maybe then your family was still be alive.
もし俺が半日でも早くたどり着いていたなら、お前の家族は今も生きていたかもしれない。
However, there’s no way to turn back time.
しかし、時を巻き戻す方法はないんだ。
So feel it. Feel the pure rage of being unable to forgive.
だから感じろ。許すことができないという純粋な怒りを感じろ。
Let it be what gives you the strength to take your action.
行動を起こすためにお前に強さをもたらすものに身を任せろ。
With that fragile resolve of yours, you can’t protect your sister or heal her.
そんな脆い決意では、妹を守ることも治すこともできない。
And you’ll never get revenge for what happened to your family!
そしてお前の家族に起こったことのために復讐することだってできない!
grovel
[動詞]①(服従して、恐怖で)腹ばう、はいつくばる ②ひれ伏す、屈服する
vulnerable
[形容詞] 攻撃されやすい、脆弱な
weakling
[名詞] 弱虫
ridiculous
[形容詞] ばかばかしい、おかしい
right
[名詞] 権利
relentlessly
[副詞] 容赦なく
throw A over B
[句動詞] AをBの向こうに投げる
hatchet
[名詞] 手斧
turn one’s back
背中を向ける
lead to 〜 (過去形:led to 〜)
[動詞] 〜という結果につながる
skewer
[動詞] (肉などを)串に刺す
be done with 〜
〜を終える
succumb to 〜
[動詞] 〜に屈する
sorrow
[名詞] 悲しみ
despair
[動詞] 絶望する
devastate
[動詞] 人の気持ちに打撃を与える、落胆させる
massacre
[動詞] 虐殺する
if only 〜
〜さえしていれば
fragile
[形容詞] 壊れやすい、脆い
resolve
[名詞] 決心、決意
生殺与奪の権を他人に握らせるな!
Don’t grovel like that and give your enemies a chance to kill you!
直訳:そんなふうに這いつくばって敵に殺されるような隙を与えるな!
解説―「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」の部分
まずはじめに目の前に這いつくばる炭治郎に向かって
「Don’t grovel like that」
と這いつくばることをやめるように促します。
「grovel」は動詞で「這いつくばる」「ひれ伏す」「屈服する」などの意味があります。
日常生活ではなかなか出会わない単語ですね。
grovelを使った例文
grovel before authority
権力の前にひれ伏す
I don’t grovel to anybody.
俺は誰にも屈服したりしない。
ところで日本語のセリフでは「這いつくばるな」に直接あたるような部分がありませんね。これは、吹き替えだと映像の尺にセリフが合うようにしないといけません。
なので、その後に「みじめったらしくうずくまるのはやめろ!」というセリフがあるのを鑑みて尺稼ぎのためにこのようなセリフを加えているのでしょう。
そして「生殺与奪の権」をa chance to kill youと表現しています。
この辺は日本語のほうが締まりますね。
さらに「生殺与奪の権を与える」をgive 人 モノを使って、give your enemies a chance to kill you(敵にお前を殺す機会を与える)と表現しているのがポイントかと思います。
個人的にはやはり原作の「生殺与奪の権を他人に与えるな!」のインパクトが英語にするとなくなってしまうように思います。
改めて原作の言葉のチョイスの秀逸さを認識します。
英語版の 『鬼滅の刃』を使えば、楽しく英語を勉強することができます。
英語版『鬼滅の刃』に関しての詳しい紹介は下記の記事をご覧になってみてください。